STAFF INC Hit the Road to IOWA
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"Go the Distance"

しばらくは上機嫌で走っていたのですが、なんとなく不安になって来ました。
というのも、Pella社の Peter がレンタカー屋を手配してくれたのですが、そこでもらったのが実にショボイ地図だったのです。
AAA(日本のJAFみたいなものだが、格段に上等)に行けば、詳細な地図が手に入る筈ですが、そんな時間はありません。
それでも、”ここのインターセクションを東”、”あそこは北”などと、チェックポイントを設定して、それなりのプランを立てていたのですが、いつまでたってもそのチェックポイントに到達しないのです。
まあ、道を間違えている訳ではなく、ただ”遠い”というだけなんですが、おそらく距離と時間に対する感覚がコチラ式になっていなかったのでしょう。
私はロスアンジェルスに7年ほど住んでいた事があって、ラスベガスやサンフランシスコなんかにドライブした経験もありますが、日本に帰ってから暫く経ちますので、その感覚が日本式に戻ってしまったんだろうと思います。
「往復8時間はかかるよ」とか「ちょっと無理なんじゃない」とか、出発前に言われた言葉が脳裏をよぎります。
18時までには戻らなければならないという事情もあります。
しかし、走り出しちゃったからには、ショボイ地図と自分の嗅覚を信じて進むしかないのです。

それでも、いくつかのチェックポイントを無事に通過すると、なんとなく気が楽になってきました。
"You'll do it" と私の肩をポンと叩いてくれた Peter の笑顔、そして、お得意の ”なんとかなるさ” 精神で開き直った私は、久しぶりに大陸的な”その”感覚を取り戻したのでした。

"Free・・・Way"

”いやになっちゃう”ほど続く直線道路、穏やかなアップダウンと緩やかなカーブ、スカンクの死骸、鹿の死骸、牧場の牛、そしてトウモロコシ畑。
始めの頃は、それらの光景がなんとも物珍しく、ウキウキ気分で走っていたのですが、こうも同じような景色が続くと退屈になって来ます。
周りを見ても、気忙しい運転をするドライバーも無く、皆さんのんびり走っています。
私もクルーズコントロールをセットして、のんびり走ります。左足をダッシュボードに乗っけたりして走ります。
しかし、これほどクルーズコントロールがありがたいものだとは。
LAの郊外でも、けっこう交通量があるので、こんなにずーっと、という訳には行きません。
ここら辺ではまさに、”必需品” なんですね。

私はクルマ、というかエンジンで動くノリモノが大好きなので、暇に任せてつらつらと他のクルマを眺めていたのですが、そのうちに日本車が少ないことに気がつきました。
いや、殆ど走っていないと言った方が良いでしょう。
私の乗っているような、ピックアップトラックが断然多いのですが、アメ車ばかりなのです。
理由を質せば、価格、堅牢性、またはユーザーの保守性などいろいろな要素があるのでしょうが、私が感じたのは別の事でした。
LAで見る日本車は、精緻・信頼などの言葉がピッタリ当てはまる、素晴らしく良くできた機械というイメージでしたが、この広大でおおざっぱな景色に置くと、いかにも線が細いのです。貧相な秀才君、といっても良いかもしれません。
翻って見ると、アメ車達は、押し出しの強い面構えと抑揚の効き過ぎたボディラインで、あんまり頭は良さそうには見えないけれど、身体はでかいし、どんな時にもへこたれない正義漢。と言った感じでしょうか。
この”気は優しくて力持ち君”達は、アイオワの "Gigantic" な風景の中にどっしりと腰を落ち着けているように、とても頼もしげに見えました。

本来、FREEWAYは、 Free of Traffic Lights なのですが、これは、Free of Cost でもあり、また、Free of Movement の意でもあると私は考えます。
全米に張り巡らされたその道は、さまざまな "Movement" によって発展してきたこの国の標榜する "Freedom" の象徴ではないかと思うのです。
アメリカで暮らしてみると、日本ではいかに市民の”移動の自由”がサポートされていないか、が実感できるでしょう。
もちろん、日本でも”移動の自由”そのものは保証されているのでしょうが、それを支える根本的な思想が欠けているように思います。
悲しいかな、帰国する度に、”移動”する事にかかる不自由さ、それこそ身動きする度に "Cost you" な閉塞感、を感じるのです。
クルマを飛行機に置き換えてみると、よく解ります。
アメリカには市営の飛行場が無数にあり、数多くの自家用機が飛んでいます。
殆どの場合、離着陸はタダですし、泊まる場合の駐機料も安く済みます。
自家用機でメキシコやカナダにも行けます。
医療ヘリや報道なんかの使用事業も含めた "General Aviation" が実在していて、空はみんなのモノという考え方が根っこにあるのです。
日本の空は、自衛隊と米軍、それと一部の航空会社のモノであって、一般庶民は、なるべくなら飛んでくれるなっていう空です。
これには地理的な要因なんかもあるでしょう。しかしもっと根元的な事、−思想や哲学−が全く違うように思います。

”民は依らしむべし。知らしむべからず”
既得権益享受者たちによって、さまざまな "Movement" を押さえつけられている我が国は、それでも、これからは激変する世界の "Movement" に従わざるを得ないでしょう。
それが良いベクトルである事を、信じたいものです。

モンタナやらテネシーやらの州ナンバーを付けたMover(引っ越し用のレンタルトラックやトレーラー)、それに、ハーレーダビッドソンに跨るノーヘルの熟年夫婦なぞを眺めていると、ついそんな事を考えてしまうのでした。

ひっくり返ったトレーラーがインターセクションを塞いでしまい、しょうがなく、その先でUターン。
なんて、ちょっとしたハプニングが2回(も)ありました。
こう言うときに大事なのが、東西南北の観念です。
アメリカの道路表示・行き先表示は、ほぼ方位に沿っていますので、自分がどの方角を向いているのか、どっちの方角に行きたいのか、を認識していなければなりません。
最近のレンタカーには、ルームミラーなどに方位の表示がされるものがあり、大変有用なのですが、ここアイオワみたいなチョー田舎を走る時には、コンパス機能付きの腕時計なんかがあると、チョー便利ですよ。

アメリカでは、対象に対して変化せざるを得ない”右・左”ではなく、あくまで自分を中心に置き、意志の主張である、”東西南北”という概念で考える必要があると思うのです。
なんだか、日本語と英語の関係に似てますね。

"Is this Heaven?"

映画で見たことのあるような景色が見えてくると、「おっ、あそこかな?」なんてワクワクしてしまうのですが、どうも違う。
また、見覚えのある景色が見えてきた。でも、違う。
そんなことを幾度か繰り返しながら走っていて、もういい加減うんざりして来ましたが、なんて事はない、ここら辺はどこも同じような景色なだけ、なのでした。
それでも、小さな小さな街を通り過ぎると、見えてきました。
”Heaven”が。
今度こそ本物です。
時計を見ると、Pellaを出てから、ちょうど3時間経っていました。

砂利道を下ってクルマを止め、ほんの少しためらってから外に出ました。
快い土の感触を足裏に感じながら近づいて行きます。
私は立ち止まって大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出しました。
目の前に広がっているこの風景が、夢を見ているような、でも、ここに立っている事が何か当たり前のような、不思議な感覚を覚えたのです。
柔らかな風が運んでくる芝生の匂いに我に返ると、あの白い家の前にあるブリーチャーに座り、辺りを見回してみました。
映画で見た景色が、そのまま目の前に広がっています。
全く同じなのです。
ここへ至る道すがら、過剰な期待をしないよう、自らを戒めていました。
俗化されてしまった観光地で味わう、失望感を恐れていたのです。
しかし、そんな心配は杞憂に終わり、なんだか無性に嬉しくなってきました。
私は再び歩き出し、ファウルラインを跨ぐと外野の芝生に腰を下ろしました。

鈍色の雲、青く柔らかい芝生、柔らかく涼しい風、なんという心地良さ。
快い静寂の中、時折そよぐ風がトウモロコシ畑をざわめかせ、今にもグラブを持ったWHITE SOXの選手達が現れて来そうな・・・。
そんな、素晴らしく心地よい空間に私はいたのです。
他のビジターも、みな穏やかな笑顔をして、唯、ここにいると言う事実そのものを楽しんでいるように見えます。
感慨深げに立ち尽くし、芝生の感触を確かめるように歩き回り、また、ニコニコしながらトウモロコシ畑に入って行きます。
私もブリーチャーから降りて、トウモロコシ畑に向かいました。
そして、Terence Mannのようにちょっと立ち止まり、ちらっとフィールドを振り返ってから、自分の背丈よりも高い、その中に入って行きました。

お土産屋さんに入ると、元気の良いおばちゃんに、まずゲストブックにサインしろって言われます。
日本からってのは少ないだろうなーなんて思いながら、ハイハイとサインをしました。
昨日は沢山人が来たけれど、今日は少ないのよ。ところであんたはどこから来たの?なんて暇に任せておばちゃんは喋ってます。
フンフン、今日は月曜日だからねー、日本から来たんだよーなどと適当に返事をしながら物色を始めました。
ふと壁を見ると、全米地図が貼ってあって、無数のピンが刺さっています。
ビジター達が、ここから来たんだよと、それぞれに刺していったモノなんですが、驚くことに、それはほぼ全ての州に及んでいるのです。
シカゴやミルウォーキーなどの大都市からも遠く離れ、ましてや近郊に観光地があるわけでもなく、ただアイオワの、トウモロコシ畑に囲まれたこの場所に、全米から人々が訪れているのですね。

この”Heaven”は地主の厚意と、これらビジターの寄付金によって成り立っているのだと聞きました。
ゴミ一つ無い敷地、青く柔らかい芝生、きれいに刈り込まれた植栽。
それらを見れば、いかにこの土地が大事にされているかが良く分かります。
全てが”善意”によって存在しているのです。
映画や野球、そしてこの場所に対する思い入れ、は人それぞれでしょう。
でも、私の感じた居心地の良さや、人々の穏やかな笑顔、の理由は、案外こんな所にあるのかもしれません。

"This is Bliss"

アメリカ合衆国は、まだ若いだけに歴史そのものが生々しく、過去の事柄がまだ歴史になりきれていないような、そんな感じがします。
過去と現在が生き生きと繋がっていて、自分たちの周りに現実味をもって息づいている。
目の前にある小さな歴史が、こんなに大事にされているという事実には、そんな背景があるのかもしれません。

そんな事を考えながら、私はファウルラインの手前で暫く佇んでいました。
そして、思いを絶つようにファウルラインを跨いで、私は立ち去り難いその場所を去ったのでした。

私の乗った Dodge は、再び広大なアイオワの大地を走り出しました。
お腹がグーグー鳴ってます。
道中、1本の水と1箱の CAMEL しか口にしていなかったのです。
でも、この分なら約束の時間には間に合うでしょう。
早く帰らねば。
これから皆で食べる、特大のステーキが持っているのですから。
ホテルの前で待ってくれていた、サンフランシスコ ジャイアンツのファンだと言う Peter に、お土産のサインボールを渡し、私の小さな旅は終わったのでした。

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文責:岩沢俊幸